それからえんぴつ
嫉妬
――きっとこの感情には、嫉妬という名がつくのだろう。
何に対する嫉妬なのかも分からない。でも確かに自分の中で渦巻く感情。それは、黒く、混沌としていて。そして、悲しみを伴った。
「サナ、あたし、カレシ出来ちゃいました」
「えっ?」
突然の告白。驚きを隠せなかった。
「へへへ」
へらへら笑うカナコに、怒りさえ覚えた。
「えーっと――誰?」
おめでとうも言わなかった。私からカナコを奪ったのは誰。それだけが気がかりだった。
「知ってるっしょ? クラスのユウマくん」
「あ、ああ――うん、知ってる」
私からカナコを奪ったのは、あのユウマ。返せって、そう思った。
「あんれ? 祝ってくれないの?」
「え、あ、オメデトウ」
求められて、片言だけど、ちゃんと言えた。カナコはそれで満足したようだった。心はそこになかったのに。
何に対する嫉妬なのかも分からない。カナコの一番が自分じゃなかったこと。自分より先にカナコにカレシが出来たこと。もしかすると、自分もユウマが好きだったのかもしれない。
でも、一番に思ったのは――私が居るのに、ってこと。
私が居るのに、の続きが何なのかは分からない。カレシなんか要らないでしょ? 恋愛する暇なんてないでしょ?
何にしろ、否定的なことに変わりは無かった。
「遊ぶ時間とか、無くなっちゃうじゃん」
ちょっと、抵抗。
「え、だいじょぶ。ユウマくんは平日、習い事あっから」
さっき自分もしたことだけれど、文章を途中でぶった切るのは良くないと思う。習い事があるから何なのだ。ユウマくんとは遊べない、なのか。それとも、土日にいちゃいちゃするのか。
「私が居るのに」
小さく呟けば。聞こえたのかはわからないけれど、カナコが答えた。
「え、まさか、サナもユウマくん好きだったとか――?」
まるで見当違いだ。私も考えたけど。それだけは違う。根拠なく、そう思った。
「違う。違うよ。でも、なんか悔しくってさ」
嫉妬してる、なんて。言えるわけ、ないじゃないか。
「大丈夫だよ。サナ、かわいいもん」
なんでい。コイツ、まるで分かっちゃ居ない――。
きっとその感情には、嫉妬という名がつくのだろう。友達を取られた、という理不尽な。自分は独占欲の塊だ。それに、カナコもユウマも気づいてはいない。
自分の中で渦巻く感情。それは、黒く、混沌としていて。そして、悲しみを伴った。きっとこの感情には、嫉妬という名がつくのだろう。
返してよ、私のカナコを返してよ。
了
2007年4月30日 野津希美
あとがき
嫉妬って良い感情では無いのに、勝手に生まれてくるワガママな感情。サナの苦しみが伝われば幸い。