それからえんぴつ

大丈夫

「だいじょーぶ、大丈夫」

そう言って君は笑った。
嘘とか、優しさとか、そんなんが含まれているようには見えない笑み。
でもね。君がほんとうに大丈夫と思ってても、大丈夫じゃないことのほうが多いんだよ。
君みたいな人が、私を一番守ってくれて、それなのに、一番傷つけるんだ。
そんなの、分かってないでしょ。

私がすっ転んだとき、君は。
私に手を差し伸べて立ち上がらせて。怪我したひざ見て。

「だいじょーぶだいじょーぶ!」

ほんとはね、ひざ、すごく痛かった。
涙が出そうなほど痛かった。
でも、君の声聞いたら大丈夫な気がした。
ただ、後でお母さんに見つかって、病院に連れてかれた。

私がいじめられたとき、君は。
いじめっ子が去っていったのを見届けて。怪我の数を確認して。

「だいじょうぶ、だいじょーぶ」

ほんとはね、こころ、すごく痛かった。
涙も出ないほど痛かった。
でも、君の声聞いたら大丈夫な気がした。
ただ、夜になって苦しくなって、後から後から涙が零れた。

私が苦しいって訴えたとき、君は。
私が叫び止むのを待って。私の涙を拭って。

「大丈夫だよ。気のせいだよ。だいじょうぶ」

ほんとにね、すごく、苦しかった。
涙が止まらないほどつらかった。
君の声聞いても大丈夫って思えなかった。
何でこの痛みを分かってくれないのって、思った。

ばか。ばか。ばかばか。
そう言ったら、君は。

「ごめんね」

って笑って言ったんだ。

2007年5月19日 野津希美

あとがき

楽観主義の人と居るのは楽なことも多いけれど、自分のつらさを理解してもらえないというのは嫌だ。身内や友達が「うつ」とかなっても「大丈夫」で片付けるのかな。