それからえんぴつ

ほんとのえがお

「ここに居てもいい? それともひとりになりたい?」

 泣いてる君に問う。

 ほんとは一緒に居たかったんだ。でも。ひとりになりたいかなって思って。君のことを思うなら、離れなきゃいけないのかなって。

「…ごめ。ひとりに、して」

 案の定。

 君は、ひとりで何を思う? ひとりで抱えて、ひとりで泣くなんてこと、してほしくない。私が、居るから。

「わかった」

 でも。私は立ち去るしかできなかった。
 君のためを思うなら。私はどうすべきだったのだろう。

 次に顔を合わせたとき、君は笑顔をつくろって、だいじょうぶ、ありがと、って言った。
 そんな顔をさせたかったんじゃない。笑ってほしかった、ただそれだけなんだ。

「どうしたの、っては聞かないけど。でもね。泣きたいなら、泣けばいい。それで。無理に笑わないで、笑いたいと思って、笑ってよ」

 言ってみた。思ったことそのまま、言ってみた。それが危険なことと知っていて、それでも言っちゃった。
 そしたら君は。

「…あはは、そだよね。だいじょぶ、泣きたい分は泣いたから」

 笑顔引っ込めて。でも。偽りの顔も、引っ込んだ。危険を負ってでも、言ってみてよかったかな。

「そのうち、ほんとに、笑ってよ。笑って、それで…」

 でも、君は涙までも美しいから。どんなかおしてても、君だから。

「うそのかお、ぜんぶなくして。抱え込まないで。いつでも、笑いたいって、思えるようになってほしい」

 笑ってなくても君だけど。笑っている君がいちばん好きだから。泣いてたってすてきだけど。笑ってる君がいちばんすてきと思うから。

「楽しいって思って。笑いたいって思って。それで、笑ってね。泣きたいって思ったら泣いてよ。怒りたいって思ったら怒ってよ。それで、さいごに笑ってよ…」

「、うん。わか、った」

 そう言って君は笑った。私には、ほんとのえがおにみえた。

2007年6月18日 野津希美

あとがき

耐えたり、隠したり。大事だけど。そうしないことも、大事だと思います。