それからえんぴつ

君はもうすぐ死んでしまうらしい

 もしも君が死んでしまったら。
 私は後を追うだろうか。

「寒いねー」
 そこは海だというのに、君はワンピースにカーディガンを羽織っただけで。寒くて当たり前なのに。
 波が寄せて、引いて。波打ち際を裸足で歩く君。
「何してるの」
 上着を着せる。
「だって、冷たいんだよ?」
「既に風邪ひいてるってわけか?」
 めがねが、太陽の光を受けて目障りだ。
「何か嫌じゃない? この時間ってさ」
「どうして」
「夜への境い目みたいなのが、なんだかこわいよ」
 海水を蹴る。
「夕焼けはきれいだけどね。あっち側はもう夜なんだよ」
 東側を指差す。
「こっちはまだ明るいのにね」
 西側。
「世界が半分になっちゃったみたい」
 真上を見上げる。
「そっか」
 言いたいことはわからない。

 もしも君が死んでしまったら。
 私は泣くんだろう。

「帰ろうか」
「うん」
 体はすっかり冷え切って。そうすると、心まで冷たくなる気がする。
「もうこっちも夜だね」
 靴下を履いて、靴を履いて。君と2人、歩き出す。
「でもさ、明日になったらまた朝になるんじゃない?」
「ちがうよ」
 君は言う。
「朝になるから明日が来るの」
「そっか」
 君の言うことはむずかしい。
「だからね。朝が来なければずっと今日なのにって。あっちに行き続ければ、ずっと今日のままかな?」
「さあ」
「そうだったらいいのにな」

 もしも君が死んでしまっても。
 私は後を追わないだろう。

 君の居た昨日を探して、東へ走るんだろう。

2008年4月11日 野津希美

あとがき

 日付変更線の意味がなかなか理解できなかった。東西南北はわかるけれど太陽がどこから昇るのか覚えられなかった。