それからえんぴつ

ケトル

 シンクで、電気ケトルにゴボゴボと水を注ぐ。

『だからアカンねや、お前、……あ? そらそーやろーけど』

 テレビから流れる声は、音量が小さくって、けれど食卓でニコニコ笑う奴にとっては、あまり関係が無いようだ。不必要に多い字幕は、アイドルの顔に被って、私には不愉快でしかないのだけど。

「なに、飲む?」

 家について早々、勝手にテレビの電源を入れ、リモコンを持って食卓に着いたのは、ずうずうしいというほか無いと思う。

「水でいーよ」

 ずうずうしさに目を瞑ってあげているところに、この態度では、沸かしたてのお湯でも出してやろうかと思う。けれど本人は本人で、これで気を使っているつもりなのだから、まったく、困ってしまう。

「だからアカンねや、お前」

「あ?」

 カチ、と音を立てて、お湯が沸いたことを示すケトル。テレビの中の声はやはり、彼には届いていなかったらしく、反応は薄い。だからアカンねや、お前。字幕には、書かれなかったのだろうか。

「コーヒーか紅茶。どっちにする。まあ、どっちにしたってインスタントだけど」

「こーちゃ、で、牛乳入れて」

「ハイハイ」

「つーか、牛乳だけでいーや」

「ったく」

 ケトルのお湯は、半分無駄になったわけで、そんなの大した問題じゃないが、なんだかイラついたので牛乳にたっぷりレモン汁を入れてやった。いい気味だ。

2008年9月9日 野津希美

あとがき

固まります、たぶん。牛乳まで無駄に。電気ケトルを買いました。便利ですね。