それからえんぴつ

いつもひとりだった

いつもひとりだった。
いつだって…

ユリカはなんでもできた。
勉強…スポーツ…
なんだってできた。

でも、友達だけはできなかった。

ユリカを妬み、誰もユリカに近づかなかった。
「ユリカ様」と皮肉をこめて呼ばれ、イジメられた。

いつもひとりだった。
校庭のすみでボールをつき、転がっていくそれをみんながよけるのをみては、むなしくなる。
ずっとずっとひとりだった…

とある日、転校生がやってきた。
名前はユウキだとか、趣味は何だとか、色々自己紹介していたけれど、ユリカの耳にはほとんど入らなかった。
いつものように、一番後ろの席で窓の外の空を眺めていたから。

いつもと変わりの無い日。
いつものようにボールをついていた。

ストンと座るといつものように転がっていくボール。
いつものようによけていくヒトタチ。
それに慣れきってしまったユリカ。

立ち上がり、ボールをとりに行こうとすると、コロコロとボールがユリカのほうへ戻ってきた。
ボールが転がっていった先には、あの転校生の姿があった。

「どしたの?」

びっくりするユリカに転校生―ユウキは言った。
ユリカは静かに返す。

「…別に」

「そう?ならいいけど…」

久しぶりだな、とユリカは思う。
こんな会話、最近していない。
それどころか、誰も話しかけてこない。
そんなのに慣れてしまったから、静かに言葉を返せたこと自体、びっくりしてしまう。
それだけ自分がすれてしまったのだろうか…

ボールを拾い上げるユリカ。
近づいてくるユウキ。

何も知らないんだな…私がどんなに嫌われているか…
ユリカは嬉しくもあったが、何か悲しかった。

「ねえ、もう行ったら?」

こんなことを言ってしまったのも、そのせいだろう。
言わなければ良かったと思った。
もう少しだけ、そばに居て欲しかった。
でも、こんなこと言ってしまったから、もう行ってしまうだろうな…

「何で行かなきゃいけないのさ?邪魔?」

だから、びっくりした。
こんなこと言い返されたのには。
それでも、冷静に。
どんなことを言われても冷静に。
ユリカはイジメられるうち、そんな風になってしまった。
冷静に…邪魔と答えればよかったのに…

「そうじゃないけど…でも…」

なんでこんなこと言ってしまったんだろう…
一緒にこいつもイジメられてしまうかもしれないのに。

「だったらもうしばらくココにいるよ」

ストンと腰をおろすユウキ。
ユリカには何故だか分からなかった。
今までみんなにひどくされたから、悲しい顔をしている人のそばに居てあげる、普通の人が分からなかった。
けれど…嬉しかった。

「なんつったっけ?」

ユウキが名前を訊いてくる。

「ユリカ…」

そう、冷静に…
必要なことしか言わなくて良い…
ユリカは自分にそう言い聞かせる。

「ふーん。ユリカか。ま、よろしく」

握手を求め、手を差し出してくるユウキが、何故だか輝いて見えた。

「よ、よろしく…」

私も最初はこんなだったのかな。
いつから今みたいになってしまったんだろう。
変わろう…変わりたい…
こいつみたいに輝きたい…


それから、ユリカはイジメられなくなった。
理由は分からない。
けどきっとユウキが関係してる。

今、私はひとりじゃない…

2007年4月6日 野津希美

あとがき

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