それからえんぴつ

闇の中で 2

「黒民はな、」

 コクは、この世界のことを少しだけ、ふみかに教えた。
 闇世界とふみかの世界は、通常は行き来できない関係にあること。それなのに闇世界へ飛ばされてしまったのは、真黒(まっくろ)や“白民(しろたみ)”に関係ある可能性が高いこと。そして、帰るためには少し時間がかかること。

「…真黒、さん、って?」

 ふみかが訊く。

「偉い人、だな。これ以上は言えない」

「どうして?」

 問うと、トクが久しぶりに口を開いた。

「そーゆーホーリツがあんだよ。これ以上訊かないほうが良い。キオク、消されるぞ」

「まあ…必要になれば話す。今は必要無い。必要無いことを知っても、危険が増すだけだ」

「ああ。興味本位で首を突っ込むな」

 さすがのふみかも、2人がかりでここまで言われては、気になることはたくさんあるのに、何も訊けなくなってしまう。

「ところで。一応確認しとくけど、ふみかは、ココに来たくて来たんじゃないよな?」

「もちろんですともさ」

 寝ていたらいつの間にか。そこに望みも願いも存在しなかった。

「ふう。ならいいんだ。お茶でも飲むか? 人間さまのお口にあうかはわかんないけど」

「あ、イタダキマス」

 コクに渡されたカップに入っていたお茶は、ふみかが普段飲んでいるパックのグリーンティと全く同じ味がした。
 それをふうふう冷ましながら飲んでいると、テントの入り口が開かれる。

「トックゥ〜〜! 大変だよ! またおふれが……って人間!?」

 コクやトクと同じ形態をした生物。ただ、乗っかっているものはアイスのコーンではなく、オレンジ色のベレー帽。

「ミカン…。まーた邪魔なときに」

 トクのうざったそうな声ったらない。

「え、邪魔? このミカン様が? 邪魔とおっしゃるの?」

「おっしゃるの」

「え〜〜。トクちゃんひどいわ。あんまりよ! ワタシ、トクちゃんのためを思ってここまで来たのに……」

 女性…なのかな…。そういえば黒民に性別はあるのかな、とふみかは疑問に思ったが、質問するなと言われていたので訊くのはやめた。

 ここでようやくコクが口を開く。

「おふれって、何だ? もしかしてまた……」

「そう! そうなのだ! だからトクちゃんたちに知らせに来たのだよ。でもまさか人間が居るとは思わなんだで」

 ミカンは哀れむような視線をふみかに向けた。

続く

2007年6月19日 野津希美

あとがき

2話目にして暴走し始めた……。