それからえんぴつ
闇の中で 1
「また人間がやってきたんだってな」
「ああ…困ったもんだよな。どうやって情報仕入れてるのやら」
「噂では真黒さんが流してるとか…っとココだけの話だぞ」
「ほんとに? あの真黒さんが…ありえねえ」
「なんでも、やたら人間を送り込んで機関を麻痺させようってことらしい」
「ああ、なるほど。あくどいなあ」
「全くだ」
―――
「お母さんのばかっ」
ふみかは押入れに飛び込んだ。ケンカしたとき、疲れたとき、宿題から逃れたいとき、いつもふみかは押入れに飛び込んだ。
光の届かない押入れ。夏は暑く冬は寒い。そんな居心地の悪い場所でも、ふみかにとっては最高の場所。暗くて、考え事をするのに最適。しかも布団が入っているからそのまま眠ることができる。起きたら朝だった、なんて日常茶飯事なのだ。
ふみかはいつもどおりに、夢の世界へといざなわれて行った。
「なんでこんなところに人間が居るんだ?」
「俺に聞くな」
「にしてもなあ。ニュースは何にも言ってなかったか?」
「知らねえ」
「もしかしたら真黒関係かも知れないしなあ。仕方ない、連れてくぞ」
ふみかが目を開けると、まんじゅうに顔を描いてアイスのコーンを乗せたような、おかしな生き物が見えた。2個(という単位でよいのかはわからないが)、居るようだ。
ふみかが居るのは林のような場所。あたりは木のようなものが幾本も生えている。ただし、それが木である保障は無い。
「あ、気がついたか」
話しかけてきたのは、よりふみかに近いところにいたまんじゅう。仮にまんじゅう1としよう。
「え?」
「起きたかって聞いてんだ」
今度はもう1個のまんじゅう。こっちはまんじゅうBとしよう。何故まんじゅうが話しているかは、この際省く。
「あ、ハイ。目覚めました。でアナタがたは…おまんじゅうよね? どうして日本語はなしてるの?」
冷静に質問してしまうふみか。少しは取り乱せってんだ。というかまんじゅうが話しているということは省くって言ったじゃないか。
「まんじゅうじゃない。黒民(くろたみ)だ。いいか、ここは人間にとって異世界なんだ。だから人間が居ては危険だ」
忠告してくるのはまんじゅう1。
「そうなの?」
「ああ。とりあえずかくまってやるからうちへ来いよ」
まんじゅう1は優しい心の持ち主のようだ。
まんじゅう1に手を引かれて(まんじゅうから直接手が生えていた)、歩いてゆくと林(と呼んでよいのかよく分からない場所)がひらけた。テントのようなものがいくつかたっている。
「ここが我が家。とりあえず入れ」
まんじゅう1に促されて、ふみかはテントの中へ入る。中には何も無かったが、雨風は防げるのだろう。この世界に雨や風があるのかは別として。
「っと、俺はコク」
まんじゅう1の名はコクというようだ。
「トクだ」
愛想の悪いまんじゅうBはトクというらしい。
「あ、私はふみか。よろしく」
まんじゅうを前にして、動じることなく自己紹介してしまうふみかも相当なものだ。
「よろしく。…んでだな、この闇世界の住人は、黒民って呼ばれてる」
続く
2007年6月16日 野津希美
あとがき
過去書いていたものを名前と簡単な設定だけ使いまわし。どんな視点で描いてたのか思い出せない。ログとっておけば良かったかも…。世界観の設定は細かく覚えているので(何故?)、ふみかが帰宅できるところまで追えれば良いな。
旧マグ時代にいちおう完結したんだっけか? 昔の読者さん、今どこに居るのかな〜。読んでくださっててありがとう。