それからえんぴつ

sun

「ねえ、まどかちゃん」
「ん?」
「まどかちゃんを、サンちゃんって呼んでたころのこと、覚えてる?」
「ん、覚えてるわよ」
「あのサンってさ、」
「サンクスのサンちゃんだっけ? 私、さいしょわからなくってさ。今ではおかげさまでペラペラだけど」
「あれさ、ほんとはそんなんじゃなくて、」
「なにかあるの?」
「太陽の、sunだったのかもしれない」
「たいよう?」
「そう、まどかちゃんは、太陽みたいだったんだ」
「太陽かぁ…」
「俺ね、最初さ、“ありがとさん”が好きだったんだ。まいにち聞こえてくる声に、すごくあこがれてた」
「そうなの?」
「うん。で、本人みつけてさ、うれしかったよ。サンクスのサンちゃんって、思ったんだ」
「やっぱりサンクスなんじゃない」
「ちがうよ。ふと、サンちゃんって浮かんで、何かなって思ったら、サンクスかなって。でも今気づいた」
「そっか」
「でね、サンちゃんのこと、好きだったんだ。でもね」
「なに?」
「いまは、まどかちゃんのことが、好きだよ」
「ん。私も、好きだよ」
「サンちゃんも、ありがとさんも、好きだったけどね、やっぱり、まどかちゃんがいちばんだよ」
「ぜんぶ同一人物じゃないの」
「…そだね」
「うん」
「でも、私もね、あの展望台で会ってたオーハシさんより、いま私の向かいに座っているひとのほうが好きよ」
「そっか!」
「うん」
「ねえ、まどかちゃん」
「ん?」
「まどかちゃんは、太陽なのかな」
「きっとね。まーるい、おひさまだよ」

end

2008年1月13日 野津希美

あとがき

 恋に恋する、ばればれ。これにて完。